日々思うこと

ストレスチェックについて(2025/9/29)


ストレスチェックを形だけにしないために

1.ストレスチェック制度の歩み

平成2712月から、従業員50人以上の事業場に「ストレスチェック制度」が義務付けられました。制度導入の趣旨は、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防ぐこと、すなわち一次予防にあります。年に1回、質問票に回答し、自分のストレスの状態を把握し、高ストレス者には医師による面接指導を案内する。これが制度の基本的な流れです。

開始から10年近くが経過し、多くの職場で「毎年の恒例行事」として定着しました。しかしその一方で、「毎年同じ質問に答えるだけ」「結果は個人に返ってくるが職場全体には反映されていない」「形式的な報告にとどまっている」といった声も少なくありません。ストレスチェックが制度化されたことで、かえって形骸化・マンネリ化してしまっている現実があるのです。

2.マンネリ化の原因

なぜストレスチェックはマンネリ化してしまうのでしょうか。大きく3つの原因があると考えます。

「受け身」になっている
労働者にとっては「毎年やらされるもの」。事業者にとっては「法律で義務づけられたもの」。その結果、制度本来の目的が意識されなくなり、ただの年中行事になっている。

結果が活かされていない
個人にはフィードバックが返ってくるものの、職場環境改善に結びついていない。「受けたら終わり」という感覚が蔓延し、意義を感じにくくなる。

組織としての取り組み不足
ストレスチェックは本来、衛生委員会などで集団分析を行い、職場環境改善に役立てるべきものです。しかし実際には、そのステップが形式的で、実効性を伴わないことが多い。

3.改めて考える「ストレスチェックの意味」

ここで改めて問いたいのは、「なぜストレスチェックを行うのか」という根本です。それは、単に高ストレス者を見つけることではありません。

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職場全体の空気を可視化すること
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問題が大きくなる前に兆候をとらえること
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そして「健康に働き続けられる環境」をつくること

これがストレスチェックの本来の意味です。言い換えれば、「個人の健康」だけでなく「職場の健康」を見つめ直す機会なのです。

4.マンネリ打破の工夫

では、どうすればマンネリを打破できるのでしょうか。ここでいくつかの実践的な工夫をご紹介します。

質問票の結果を対話につなげる
結果を個人に返すだけではなく、職場単位で「気になる点」や「改善できること」を話し合う場を設ける。衛生委員会や部署ミーティングで共有すれば、「自分ごと」になります。

毎年の変化を意識する
単年度の結果だけでなく、前年との比較を行う。「この部署は改善した」「ここは悪化している」という傾向を見れば、職場改善のヒントになります。

経営層にフィードバックする
ストレスチェックは人事や総務だけの問題ではありません。経営層に報告し、方針や人員配置に反映させて初めて実効性が出ます。

職場環境改善の具体的アクションに落とし込む
例えば「休憩スペースを見直す」「相談窓口を周知する」「時間外労働を減らす」など、小さなことからでも実行する。実際の改善が見えれば、労働者も「受けてよかった」と感じます。

5.ストレスチェックを協働の場に

私が強調したいのは、ストレスチェックは単なる調査ではなく、「協働のツール」であるということです。労働とは本質的に協働であり、協働はコミュニケーションによって成り立ちます。ストレスチェックを活かすとは、つまり「職場でのコミュニケーションを問い直すこと」でもあるのです。

結果を「数字」で終わらせるのではなく、「なぜそうなっているのか」を語り合う場にする。その過程で、上司と部下、同僚同士が互いの立場や気持ちを理解し、職場全体が少しずつ変わっていく――これこそがストレスチェック制度の真価だと私は考えています。

6.まとめ――“毎年やる意味を取り戻す

平成27年から毎年行われてきたストレスチェック。「また今年も同じことをやるだけ」と思えばマンネリに映ります。けれども、「今年の職場の姿を写し取る大切な写真」と考えれば、その意味は大きく変わります。

ストレスチェックをきっかけに、職場環境を振り返り、改善の糸口を見つける。その積み重ねこそが、働く人の健康を守り、組織の持続可能性を高める道です。

「やらされる制度」から「活かす制度」へ。今こそストレスチェックを改めて見直す時ではないでしょうか。

 

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